新卒や転職でIT業界に営業として飛び込まれた方はもちろん、起業や独立してフリーランスエンジニアとして活躍しようとされている方にとっても営業に関する前提知識や用語の習得は避けて通れないかと思います。
厄介なのが、技術的な用語はGoogle等で調べれば解説記事がたくさん出てくるのに対して、営業的な用語や業界特有の商習慣というのは検索してもあまり有益な情報が出てこなかったりします。
今回は見積書のような営業活動の各タイミングで登場する書面について解説します。
見積書や請求書などはイメージがつく方がほとんどかと思いますが、請書や検収書などは営業職やプロジェクト責任者の立場でなければ接する機会が少ないのではないでしょうか。
※本記事の内容はIT業界、特にシステム開発やWeb開発の分野を主眼に書いています。他の業界はまた違って慣習があるかもしれませんのでご注意ください。
提出方向: 業者→顧客
営業の最初のタイミングで提出することが多い書面です。
顧客要望に従って、そのシステムを開発したりサービスや機器を導入するといくらになるかを示します。
金額を伝えることが見積書の一番の目的ですが、通常は各種条件や前提事項がセットで記載されます。
例えば「○○の作業が含まれるが△△は含まれない」「サポートは月XX時間まで」といった内容です。この前提条件が顧客に伝わっていないと後々トラブルの原因になりますので(「この作業はやってもらえると思っていた」「自分たちで用意しないといけない機器があると知らなかった」など)、作業範囲などが正しく網羅されているかをチェックするのも大事な作業です。
なお、見積は一発勝負ではないことがほとんどです。
営業の初期段階で顧客の予算感(いくらまでなら支払えるか)に適合するかを確認するためにおおよその金額を「概算見積」として提示し、提案の最終段階で確定版として「正式見積」を提示することが多いです。
概算見積は類似案件や担当者のカンをベースに金額が算出されることが多いですが、正式見積では各企業の見積手法に則った正確な金額で算出する必要があります。正式見積は顧客への提示前に業者社内でも承認が必要なケースはありますので、営業担当の方は確認するようにしてください。
提出方向: 顧客→業者
各業者から提示された見積書や提案書(提案内容が記載されたもの)などを吟味し、依頼する業者などを決定した後に、その業者に対して顧客が発行する書面です。「発注書」と呼ぶこともあります。
「もらった見積書の通り、御社にこの金額・条件で仕事を正式に依頼します」というもので、通常は契約書の締結もセットで行います。
これをもって正式に「受注」したことになりますので、営業マンとしてはこの注文書を受領することが一つのゴールとなります。
余談ですが、ある程度の規模の企業同士であれば担当部門で業者を決めてから注文書や契約書を発行・締結するまでに稟議による経理・法務部門の審査が必要となり時間がかかることが多いため、先に「内示書」という形で仮注文を行うことが多いです。
採用活動で言う「内定書面」のようなイメージですね。契約書ほどではないものの一定の法的拘束力はあるとされていますので、内示書が発行された段階で業者側も機器の手配や開発作業に取り掛かることが多いです。(仮に顧客側から一方的に「やっぱナシで」と言われても、着手分の費用は請求できる可能性が高いため。)
提出方向: 業者→顧客
顧客から業者に注文書が交付された後、業者側が「確かに承りました」ということを示すために発行する書面です。
「請書」と省略されることも多いほか、注文書が発注書と呼ばれることがあるように「発注請書」と呼ぶこともあります。
通常は請書の発行をもって契約が成立したことになります。
なお、内容的には契約書を締結していれば同じことですので省略されるケースもあるかと思います。
提出方向: 顧客→業者
納品されたシステムや機器の動作確認が顧客側で完了し、「確かに依頼したものを受け取りました」ということを業者に対して示すための書面です。
システム開発案件であれば、この検収書をもって開発完了ということになります。参画したエンジニア全員にとってのゴールですね。
システム開発業者はこの検収書の受領タイミングで売上を計上する会計処理(検収基準)としているところが多いかと思いますので、多くの企業の期末に当たる3月末に検収書を回収できるよう開発や納品スケジュールが組まれることが多いです。(必然的にエンジニアの方にとっては2月~3月は開発追い込みの繁忙期になりがちです。)
検収書の交付をもって注文した所定の機能・性能を満たすシステムや機器が納品されたことを顧客が承認したことになりますので、これ以降の追加要求や交換対応などは業者側も応じないことが一般的です。
ただし、瑕疵(かし)担保責任(民法改正により現在は「契約不適合責任」が正しいようです)と言って、納品後(改正後はバグに気づいたタイミングから)一定期間はバグや品質不良に対する業者側の対応義務が存在しますので、業者側の「検収はクリアしたので後からバグが見つかったと言っても知りませんよ」というような逃げ切りは通常認められないです。
民法上は1年ですが実際には契約書で個別に定めているケースも多いですので、極端に業者・顧客の一方が有利な内容になっていないかはぜひチェックしてみてください。
提出方向: 業者→顧客
検収書が交付され、納品が完了した後に発行される書面で、支払金額や期限、支払先情報が記載された書面です。
支払いタイミングは注文書や契約書で取り決められていますが、システム開発の世界では多くが「検収月末締め翌月末払い」、つまり検収を受領した翌月末を支払期限としているかと思います。
個人事業主の方でも請求書はインボイス対応に必須の書面となっていますので、対応するフォーマットでの発行が求めらることがほとんどでしょう。
提出方向: 業者→顧客
いわゆるレシートです。顧客から支払いがなされた後、「確かに代金を受け取りました」ということを示す書面です。
請求書や検収書は日常生活でも馴染深いものですので、イメージしやすいかと思います。
見積書:業者→顧客
注文書:顧客→業者
注文請書:業者→顧客
——ここまで営業活動——
検収書:顧客→業者
請求書:業者→顧客
領収書:業者→顧客
この記事では営業から入金まで、一連の各フェーズで使用される書面について解説しました。
営業担当者や独立される方はもちろん、プロジェクトマネージャーを目指す方も各書面の役割・タイミングはしっかり押さえておきたいものです。