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2025年3月13日
【現役営業が解説】IT業界の「商流」とは

新卒や転職でIT業界に営業として飛び込まれた方はもちろん、起業や独立してフリーランスエンジニアとして活躍しようとされている方にとっても営業に関する前提知識や用語の習得は避けて通れないかと思います。

厄介なのが、技術的な用語はGoogle等で調べれば解説記事がたくさん出てくるのに対して、営業的な用語や業界特有の商習慣というのは検索してもあまり有益な情報が出てこなかったりします。

この記事では営業として一番最初に理解しておく必要がある、「商流」というものを説明してみます。

※なお、ここでの「IT業界」というのはシステム開発(いわゆるSIなど)の分野を前提としています。Webや広告、インターネット業の世界はまた異なる部分もあるかと思いますのでご注意ください。

「商流」とは商売(商品、サービス)の流れを示すビジネス用語です。

(例)
上司「○○案件の商流はどうなっているかな?」
部下「ウチの仕入れはA社で、B社→エンドユーザーの予定です。」

この場合、A社から仕入れてそれをB社に販売し、B社から最終的な顧客企業に販売するという流れになります。

これ自体はIT業界に限らないどこの業界にもある用語です。

IT業界(特にシステム開発の分野)の事情として多段商流が非常に多いというのがあります。
多段商流とは読んで字のごとく商流が多段階に渡ることを指し、営業経験の浅いうちは登場人物(企業)の多さに頭を抱えることになります。

例えばA社がどこかにシステムを開発してほしいと考えたとき、シンプルにするなら技術力のある開発会社に声をかけて、

システム開発会社→A社

の2社の商流で完結できるはずですよね?

しかしながら実際には

E社→D社→C社→B社→A社
F社→ ↑  ↑
G社→→→→↑

のような複雑怪奇な商流になることが頻繁にあります。(「商流が深い」などと言ったりもします。)

多段商流になる理由は、発注会社側(A社)、システム開発会社側(B~G社)の双方にあります。

発注会社側の理由

  • これまでの経緯から、今回依頼するシステム開発会社とは別の会社も商流に入れたい。
    (例)過去に別の取引で値引きしてもらったお礼代わり
       社長同士が仲良しで今後取引を拡大したい
    直接そのシステムの品質や価格と関係がない世界での話のため、「政治的な理由」などと呼ばれたりします。
  • 初めて依頼する会社で取引実績がなく会社規模も小さかったりすると、その会社が倒産や廃業した場合のリスクが怖い。(「与信が通らない」などと言います。)
    そのため、間に取引実績のある別の会社を挟むことで、リスクヘッジをしたい。

システム開発会社側の理由

  • 自社の技術力や社員数だけでは依頼されたシステムのすべてを開発することができないため、一部を下請け会社に外注したい。
  • 自社のグループ会社に一部の仕事を任せることで、グループ会社の利益を確保する。
  • 単純作業を自社社員の人件費で行うと金額が高くなりすぎるため、より人件費の安い下請け会社に一部を外注したい。

もちろん、これ以外の理由もありますが発注側、開発側両方の要望で結果的に商流が複雑になるというわけです。

もう一度先程の商流の例を見てみましょう。

E社→D社→C社→B社→A社
F社→ ↑  ↑
G社→→→→↑

これを先程の理由に当てはめてみます。

  • A社の考え
    システムの内容的に今回はC社にお願いしたい。しかし、B社は普段からずっと自社システムのサポートをしてもらっているし、安くしてもらった義理もあるからここを商流に入れてあげたい。
    あと、C社は初めての取引先だから何かあったときB社が間に入ってくれると安心できる。
  • B社の考え
    商流に入れてもらえれば売上は立つし、わずかながら利益も取れるのでありがたい。
    C社なら別案件での取引もあるので問題ないだろう。
  • C社の考え
    システムの内容的にウチが得意とする内容だけど、一部機能は経験がないからそこが得意なG社に外注したい。
    グループ会社のD社にも半分ぐらい仕事は依頼しておこうかな。
  • D社の考え
    単純作業については安くでやってくれるE社にお願いして浮いた金額で利益を確保しよう。
    納期が別案件の繁忙期に被るから一部のプログラムはF社に外注して作業量を減らしたい。

このように、各社の思惑が組み合わさって多段商流が生まれているわけです。

では多段商流にはデメリットはないのでしょうか?
もちろんあります。

  • 最終的な価格が高くなる
    当たり前ですが、商流に入る会社はそれぞれ自分たちの利益を確保します。(義理で入れてもらったB社は少額に留めることもあります。)
    仮に上記の例でE社の担当部分にD~B社がそれぞれ利益を10%乗せるだけでも、
    E社(100万円で提供)→D社(100万円で仕入れて110万円で提供)→C社(110万円で仕入れて121万円で提供)→B社(121万円で仕入れて133万円で提供)→A社(133万円の支払い)
    と、複利効果も合わさって33%も支払い額が高くなってしまいます。
  • 責任の所在が曖昧になる
    どちらかというと、こちらのほうが問題になることが多い印象です。
    関係者が増えるとその分話がズレて伝わったり、一部が抜け落ちる可能性が高まります。
    結果としてA社の意図したシステムの動きが実現できず、B社~G社の誰が悪いのかでトラブルになることがあります。

このように、可能なら商流はシンプルであるに越したことはないのですが、現実的には多段商流の解消は難しいものです。

商談、提案活動をしていくにあたって商流をきっちり把握するだけでも、

  • 自社に求められている役割はなにか
  • 利益はどの程度確保できそうか
  • 競合に対してどの部分で優位に立てそうか

などの情報が見えてくるようになります。

例えば、発注企業(A社)までの間に何社も会社が挟まっている状況だと自社の担当範囲ではあまり多くの利益を乗せる余裕はなさそうだと判断できますし、親会社からの依頼であれば競合はほぼいないと判断できます。

実際にはもっとたくさんの考えるポイントや抑えるべき情報がありますが、案件の話をもらった段階でまず最初に商流を確認することで最善の初動が取れるのではないかと思っています。

ある程度経験を積んだ営業マンであれば特に意識するまでもなく商流は確認していると思いますが、商流が複雑であればあるほどそこから得られる関係各社の意図というのも把握しやすくなるものです。

  • 商流とは関与する会社等の流れを示したもの
  • IT業界は多段商流になりがち
  • 商流を制すものは営業を制す

この記事ではあくまでIT業界の商流のごく基礎的な部分を解説しました。
実際には実務経験を通じて理解を深めていく必要がありますが、まずは基本的な理解のきっかけになれば幸いです。